あたしと啓介は三組だった。
席は決められていて、啓介の名字は多田。
あたしの名字は田中だった。
同性に田中と言う女の子が居たから、あたしは啓介の斜め後ろになった。
嫌いな人種でも、見てしまう。
今まで知っていても、ここまで近くで見た事なんて無いし、じっと見る事なんてあり得なかったから。
啓介は、たまに後ろを向いて友達と話してたりしてた。
悔しいけど、笑顔は好きだった。
八重歯が見えて、えくぼが可愛い。たまに笑う時に微動するワックスで止められた髪。目がふにゃっとなって、幸せな感覚を味あわせてくれる。
啓介は、話相手が笑うと必ず笑う。
だから……
啓介の友達の笑い声が聞こえると、啓介を見るのが習慣になった。
それから、一言二言話した。
たまに、いや、一度だけ、
「田中、おはよう」
そう言ってくれたけど、前の同性同名の子に言ってるかもと思って答えるか答えまいか考えたけど、啓介があたしを見て言ってたから、
「おはよう、多田君。」
初めて、啓介に笑いかけた日だった。