「じゃあこれ、受け取って」
「あの…」
「ほら、手が冷えちゃう」
ね、と念を押すようにして言うと、
彼は躊躇いがちにそれを受け取った。
森見くんならわかってるはずだ。
それが基哉のお気に入りのジュースだったこと。
「先輩…」
「部活、そろそろでしょ?頑張って」
「そうじゃなくて…」
「もういいから、ね?」
「違うんです!基哉先輩のプレゼント…俺が持ってるんです!」
諭そうとした私を今度は森見くんが
予想だにしなかった言葉で遮った。
「え…?」
基哉からのプレゼントを?
森見くんが…?
「どう…し…」
手にしていた紅茶を落としそうになって、慌てて力を込めた。
なんで?
森見くんが持ってる…?
「基哉先輩、早い内に用意してたらしくて、家に置いておくと家族にからかわれるからって
部室のロッカーにしまってたんです。それで…そのまま…」
「嘘…」
「すみません!ほんとはすぐに渡そうと思ったんですけど…
橘先輩すぐ休んじゃって逢えなくて…それに…」
森見くんはそこで言葉を切ると、
スポーツバッグとジュースを地面に下ろして鞄の中に手を入れた。