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始業5分前のざわつく教室の窓際最後列。
皆が羨むその場所の椅子を引いて


「おはよ。智香」


前の席の後姿に声を掛けた。


「おはよー!ねぇ友響。朝から面白いもの見ちゃった」
「面白いもの?」
「うん。あのね…」


ちょいちょい、と指で私を招く智香。
席について『何々?』と、彼女の口元へそっと耳を寄せると


「…サッカー部の部室前で、相模が告られてるの見ちゃった!」


彼女は潜めた声を最大限に強調して、その『面白いもの』を明かした。


「えぇ?」


私も同様に声を潜め、智香の顔を見る。
サッカー部の部室は、校舎とは別に部室棟があるその一角だ。
朝練後で始業前には確かに人気もほぼない。
それよりも昨日の今日で相模という名に過剰反応してしまうのが自分でもわかった。
驚きと同時にそれを落ち着けて、再び智香に身体を寄せる。


「それで?」
「相模は済まなそうにしてたし、女の子も手で顔を覆ってたから勿論振られたんだと思うけど…」
「そか…じゃあその女の子までは見てないんだ?」
「さすがにね。大体相模に本気で惚れてる子、結構いるもん。
聞いた限りじゃうちのクラスでも何人かいるし」
「マジで?信じらんない…」
「かーなりモテるよ相模。入院中の先生帰ってくんな同盟が存在するくらい」
「へぇ~…」