「そりゃね、いつまでも捉われていたままというのがいいとは思わない。
周りや今日の彼みたいに焦れるのもわかる。でも、忘れるなんて無理でしょ。彼は確かに存在したんだから」
「じゃあどうすればいいの!?どうすればよかったの!?
私にはふたりで決めた約束を守り続けるくらいしか…っ…存在した証が残せないじゃない…!」
掴まれた肩の手を振り解こうともがいたけど
それを上回る力で
抱き締め、られた。
「そんなことない」
突然のことに呆気に取られ、金魚みたいに唇をぱくぱくさせて
声にならない声をあげる。
相模の横顔にぴったりとくっついた耳を目掛け
一気に血液が顔に上った。
「そんなこと、ないから」
再び同じことを耳元で告げると抱き締める力が増して
胸と胸の間で押し潰された両手が
相模の鼓動を伝えてくる。
まるで、早鐘。
私も、同様に。
「君が忘れないでいれば、それでいい。それで十分彼が存在した証になる」
…意味がわからないわ
なんで
「だってそうでしょ?彼がいたから君が好きになったものとか、
彼がいなかったら知らなかったもの、沢山あるでしょ?」
なんであんなに苛立ってしょうがなかった奴の胸で
私はこんなにもドキドキしていて
「彼がいたから今の友響ちゃんがいるんでしょ?」
こんなにも泣いていて
「だったら俺は、彼に感謝したい」
こんなにも嬉しくて
「だから、忘れない意志を持ってて欲しい」
こんなにも聞きたかった言葉を
聞いているんだろう…

