グラウンドでは相変わらず、ボールを追い掛け走るサッカー部員の姿。
3年生はもう引退したから、今いるのは1・2年で新たに組まれたチームだろう。
ひとつふたつ違うだけなのにやたらと元気に見える彼らを、横目で一瞥して校門へ足を向ける

と、


「うわっ!!」


誰かが叫ぶ声がして振り返った。
蹴り損じたサッカーボールが数回地面を跳ねて、私の方へ転がってくる。


「おいどこ蹴ってんだよー!」
「悪ぃ!」


また誰かが叫んだ。同時に誰かが駆けて来る。


「すいません!」


私は足元で失速したそれを手にして投げ渡そうと構えた。
その瞬間、走ってくるゼッケンの10番が目に入った。
今のチームのエースだろうか。
気付いたらボールを持つ手が下がり、軽やかに駆ける10番の彼に見入っていた。

この彼、知ってる。そうだ、2年生の。
名前は…


「…あれ…橘先輩?」


記憶を辿る最中で先に名前を呼ばれ、我に返る。
そして頭に浮かんだ色んな事を振り切るようにして、彼に向かってボールを投げた。


「頑張ってね」


受け取ったのを確認して返事代わりに返す。


「ありがとうございます!」


再びコートへ戻る彼を見やって、私は校門へ向かって歩き出した。




…もうすぐ18になる。

ファーストキスから3年。
初めてのセックスから2年。
彼氏いない歴1年と少し。

相模が屋上に来るようになって3日。
その度に苛々。つまり私は3日とも苛々していることになる。

なのにたったそれだけの日数にして
あんなに軽々しくキスされ、告白され、本気だからと言われた。


…嘘だ。絶対。私はからかわれてる。
こんなの嫌だ。
絶対認めない。
認めたく、ない―。