「落ち着いた?」
「ん…」
「どうしてあんな事態に?」


抑揚のない風に相模が尋ねる。
言葉を探して俯くと、マグカップの中に映った自分の顔が揺れて歪んだ。
でも


「…部室に誘われた」


出てきたのは、飾り気のないただの事実だけだった。


「誘われただけじゃ友響ちゃんは行かないでしょ。自販の所で何話してたの?」
「見えてたの?」
「あぁ、やっぱ気付かれてたんだ」


くすくすと笑うと、相模は私に向き直り


「ちゃんと始めから話してくれる?」


じっと覗き込んだ。



「…勉強する気が起きなくて…自販に行ったの。紅茶買ったら缶が熱くて落としちゃって…
それ拾ってくれたのが彼だった」
「知り合い?」
「基哉の後輩だった2年生。顔合わせたら挨拶はしてたけど…
基哉がいなくなってからはなるべく接触を避けてた」
「うん。それで?」
「他愛もない立ち話…して、そしたら自然と基哉の話になっちゃって…
彼が見てた基哉も私が全然知らない基哉だったのがちょっと悔しくて…そしたら、『部室に来ないか』って」



思ったよりきちんと話せている自分に少しばかり驚いた。
ひと息付いて紅茶を口にすると、りんごの香りが口腔内いっぱいに広がる。