ゆっくりとドアの所までいくと、
相模が持ってきた段ボールからビニールに包まれた真新しいジャージが見える。
一番上に見えたのが10番のそれで、ドアノブに掛けた手が固まった。

心が冷えてく。
叩かれた頬に触れると、乾きかけた涙の痕が幾筋かあるのがわかった。
昨日にも増して酷い顔をしていそう。


意を決してドアを開けると煙草の香りが迎えた。
ジャケットを差し出そうとすると一瞬首を横に振っただけで
相模は安堵の表情を浮かべ、


「…行こうか」


と、ドアに鍵を掛けて私を促した。
選択権を与えないつもりらしい。


駐車場までの道のりを私に合わせてゆっくりと歩く。
途中誰かに見られたりしないか、なんてのも考えたけど
すぐにどうでもよくなってしまった。
早くここから離れたい―。



相模はセダンタイプの濃紺の車の助手席に私を座らせた。


「誰か来ても開けちゃ駄目だよ。10分…や、5分で戻ってくるから」


なんて、子供に言い聞かせるみたいにして告げ、再び校舎へ戻っていった。
サイドミラーに映り込んだ顔は想像通り酷い様。
溜息を吐き出して目を閉じる。

感情の行き場がどこにもない。
このまま家に帰って
また明日、学校に来ることが出来るのだろうか。

…自信がないわ。