「もう1回言おうか?」
「言わなくていい!」


噛み合わないと納得したところで意味なんかなかった。

どうしていきなり私に対して好きなどと言うのだろう。
授業の時にも見せないような、真剣な眼差しで。


「何考えてんの…?」
「何ってそりゃあこれでもオトコですから?イロンナこと考えて…」
「ふざけないでよ!」


その眼差しから無性に逃げたくなって、勢いに任せて腕を振り払った。
解放された手首がじんわりと熱を帯びている。


「あんた…ムカつくわ…!」


正視出来ずに吐き捨てて、落ちた鞄を手に階段を駆け下りた。
引き止める素振りも見せやしない。
からかわれた…?
それだったらあまりに理不尽すぎる。
10歳も離れた子供を相手に。


「友響ちゃん!」


一つ目の踊り場を抜けた辺りで相模の声が掛かり
反射的に足を止めた。


「俺、一応本気よ?」


頭上に降り掛かる声。
だけど顔まで見上げる気にはならず、再び階段を蹴るように降りる。

…何が一応本気よ。
からかってるようにしか見えないわ。
だからこそ苛立つの。

5階分の階段を一気に降りたせいで息が上がった。
そしてさっきの昂りを思い出す。
自然と唇に指が触れ、はっとする。
何してんだ私…
まるでその行為は
秘め事を想っているみたいだ。

恥ずかしさにふるる、と頭を振って、靴を履き替え校舎を出た。