…消え入りそうな声でそう呟いたほんの、ほんの刹那、
私を押さえつける彼の力が抜けた。
振り解いた右手で思い切り彼の頬を叩くと僅かに彼は怯み
一瞬の隙に逃げようとするも、今度は下半身が彼の体重で押さえ付けられ
「…ぃゃッ…―」
両手首を片手で易々と掴まれ、仕返しの如く頬を打たれる。
「…ッ―」
叫んだつもりだったのに声が全く出せなかった。
声帯が麻痺したように、ただ空気だけが喉の奥から出ていく。
それをいいことに、彼の手はするりと自らのネクタイをほどいた。
次にされることもわかった。
だけど声が、出てこない。
予想通り、私の手はひと括りにされ、頭上で力を失った。
彼の両腕が自由になる。
ゆっくりと迫る彼の身体が恐ろしく大きなものに見える。
この状況を打開する方法なんて
何ひとつ思い浮かばなかった。
あんなにミステリ読んでいたのに情けない話だ。
頬が、痛い…
「手荒なことしたくないんですよねー…」
だったら今すぐこのネクタイを解いて
私を解放し―
「っ!」
不意にまた、口を塞がれた。
始まるのかと思ったけど、彼の目は私ではなく
扉の方に向けられている。
耳を澄ますと微かな物音がして
それはすぐに扉を強引に開けようとする音に変わった。
最初から鍵を掛けていたの…?
扉の鍵は持ったままで?
じゃあさっきブラインドを下ろしたのも…

