「はい!」
ぱぁぁっと瞳を輝かせ、健康的な歯を見せて彼は笑う。
なんだか子犬みたいだなぁ、なんて思い、歩き出した彼に続いた。
この学校には、普通教室が押し込まれている校舎と
運動部用の部室や、部活用の教室が並ぶ部室棟がある。
文化部や帰宅部には、体育で使う機会がある時以外縁のない場所。
特に部室のある方には近付くこともない。
私もこちらに来たのはその届け物を持ってきた時以来で
その場所独特の土臭さがやけに鼻に付いた。
『蹴球部』と妙に達筆な字で書かれたドアの前で立ち止まると
森見くんは用具箱の中から鍵を出して開け、
「どうぞ」と私を促した。
土臭さの濃度が増して、湿っぽさと汗臭さに一瞬顔をしかめる。
それに気付いた彼が一瞬吹き出して
「やっぱ臭いますよねー。ちゃんと換気してるんだけどなぁ…」
と、参ったように呟いた。
「マネージャー以外で女性が部室入るなんていつぶりだろう…
随分前に今の部長が彼女連れてきたことはあったんですけどね」
「そういうのっていいの?私駄目だと思って近付かなかったんだけど」
「良識次第って感じです。その彼女もそれ以来来てないですし」
足を踏み入れたそこは、思ったよりも広かった。
校庭側に面した窓にはブラインドが下ろされ
少し離れた位置に教室で使う机が3つ。
両サイドには背の高いロッカーが並び、5人掛けくらいの長い椅子が3脚置かれている。
前に来たその時はドアまでだったから
入ったのはほんとに初めて。
背後でドアが閉まり、彼の足音が私の足音に重なった。

