目にこみ上げてくるそれを止める術もなく
だけどどんなに視界が滲んでも、私の眼差しはその形を捉えた。

私の名前と基哉の名前が
相合傘の下に綺麗に収まっている。
それは紛れもなく基哉の筆跡だった。


「もとや…っ…」


一体いつ書かれたものなんだろう。
雨の日以外毎日ここで一緒にいて
あれからもここに訪れて
なのに私は一体何を見てきたと言うのだろう。

こういうものを書く無邪気な人だったということも
それを私に告げない悪戯心があるということも
私は何も知らなかった。

いつか私が気付いて
ふざけながら問い詰めて笑い話にすることを
彼は待っていたはずだ。

記した可能性にほんの少し期待を寄せて。


あんなに近くにいたのに
どうして見つけられなかったの?


悔しさと愛おしさと憤りと思い出が溢れて、溢れ返って
プレートの上に歪な丸い痕を描く。

相模がいることが気にならなかった訳じゃない。
でも、今は
ただその衝動に素直なままでいたかった。


眼鏡を地面に置いた途端、押し止める何かが欠壊したように涙が止まらなくなった。

沸いてくる嗚咽を噛み殺し、基哉の事だけを想って
ただ、泣いた。