「ふぅん。そういや好きな人もいないんだよね?」
「それが何」
「この人は違うのかと思って」


この人?
怪訝に思い首を傾げると、
相模は一歩下がって『危険!』のプレートに手を掛け


「この人」


くるりとそれをひっくり返した。



「―え…?」


何年も雨曝しになったであろう木製のそれは
腐った部分もあれば毛羽立っている部分もあって
相模が何のことを言っているのか私には検討もつかない。

ずれた眼鏡を直しながら、近付いてそのプレートの端を摘む。
と、細いボールペンか何かで、書かれた文字をようやく認識することが出来た。


「―っ!」


はっと飲み込んだ息がそのまま一瞬止まり
目を見開いて、見間違いじゃないことを何度も何度も確認した。
その形も、文字が名前だということも、その名前が誰のものかということも。


「嘘…」


全身の力が抜けて、地面にカクン、と膝を付き
ぼろぼろのプレートを抱えるようにして、指で文字をそっとなぞる。


「友響ちゃん、棘刺さっちゃう―」
「なんで…」