智香の声のトーンがふっと下がる。

表情が少し曇って
伺うような眼差しを向けられる。

こういう時の返答は、どうしたらいいのかわからない。
数式だったらまだすんなりと答えられるものの
自分の心情というのは
どうしてこうも割り切ってくれないのだろう。


「ん、もうちょっと…かな」


そう告げて曖昧に笑ったと同時に、私にとっては救いのチャイムが鳴った。


「友響…私、もう忘れてもいい頃だと思うんだ」


智香が言いたいことはわかる。
『いつまで引き摺ってんの?いい加減忘れたら?』
だけどそれが出来れば私だって苦労しない。


「もうちょっとだから…大丈夫」



ガラッと開いたドアから1限の教師が入ってきて、
智香は心配そうに私を上目遣いで見てから前を向いた。

もう1年になる。
そんなことは私が一番よく知っている。
もう1年経つんだから。
そんな風に思う自分もいる。

だけど、私がそう思うことを、きっと私は許せない。



溜息を深呼吸に変えて、大きく息をついた。


昨日もよく眠れなかったなぁ…
本のせいじゃなくて
どっかの馬鹿な相模のせいだけど。

今日もまた出来たクマをコンシーラーで隠して、メイクポーチにもしっかり入れてきた。
あんなこと言われたからって絶対負けない。

約束、なんだから…