なんだか無性に苛立って、相模の手から本をひったくると
鞄を掴んで扉へと走った。


「そういや友響ちゃんてさ」


ドアノブを捻ろうとした手が止まり
振り返りもせずに、不機嫌を丸出しにして返す声を搾り出す。


「…何」


嫌な予感がした。
まるでとろりと纏わりつくような相模の声は、初めて聞いた。


「なんだかんだで俺の相手してくれるよね」
「…あんたムカつくから言い返さないと気が済まないのよ」
「そういうもん?」
「そーよっ」
「でも俺が嫌とかムカつくとか言う割に、ここには来るんだね」
「―っ!」


その指摘に、落ち着いたと思った心臓が再び高鳴る。
なんて腹立つ言い方。
自意識過剰にも程がある。

奥歯にギリッと力が籠もり、言い返す言葉を探して繋げ、扉を開けて振り返った。


「…それが約束だからよ。あんたなんか関係ない」


その程度の言葉しか出てこないのが情けなかったけど
言われっ放しよりずっといい。
踵を返して校舎の中へ飛び込んだ。


「気を付けてねー!」


閉まりかけた鉄の塊の向こうから聞こえた声に振り返ることもなく
吹奏楽部の音が満たす階段を一気に降りる。



…どうしよう。

どうしようどうしよう。


ほんの僅かな瞬間でも
引っ掛かりを感じてしまった。


頬に手を当てると、はっきりと熱を帯びているのがわかって
夕暮れ時でよかったと心底思う。


私一体何考えてんの…?

2階と3階の間の踊り場で、足を止めて立ち尽くした。
呼吸と鼓動が煩くて、泣き出しそうな衝動を堪えていることに気付く。


どうしよう…


「どうしよう…基哉…」