勢いよく言い放って、相模は煙草に火を付けた。

こうやって何か別のもので気持ちを紛らわせることが出来るのは
大人の狡さ、だと思う。
ひとつずつ抱えていくことしか出来ない私は
損しているみたい。

自分にも出来るかな、と紅茶の缶を傾けてみたものの
喉を通っていくそれは決して紛らわせてくれることはなく
温い液体がただ胃の中に注がれただけだった。



「あんた…何考えてんのかわかんないわ」
「そーんな簡単にばれちゃったらつまんないでしょ」


…やっぱり私、損してる。
なんで私が戸惑わなきゃいけないの?

意味わかんない…



「…いつまでここにいる気?」
「んー、戻っても今日はもうすることないしなぁ」
「じゃあ帰ればいいじゃない」
「約束があってね。俺通勤車だし、車中待機ってあんまり好きじゃないんだ」


空なのか、缶を灰皿代わりに灰を落としながら、相模は煙を吐き出す。


「あぁ、それとも送ってって欲しい?」
「はぁ!?」


馬鹿みたいな提案に、思わず私は声を上げた。


「何言ってんの?ばっかじゃないの!?」
「いやぁ、ほら、もう暗くなるのも早いし?女の子のひとり歩きってやつは危ないっていうの?」
「いちいちクエスチョン付けるな!馬鹿相模!大体誰かに見られたら―」
「あれ、見られなきゃいいの?」


その台詞に、体内の熱が顔に集まって
かぁっとなるのを感じてしまった。


「ちっがうわよ!馬鹿!!」
「何、違うの?」
「何度も言わせないで!」


…大人はずるい。
相模みたいな大人はほんとにずるいと思う。
自分の事は不透明にするくせに
私みたいな子供にはそうすることを許さない。



「っ…あんたが戻らないなら私が帰る!」