「あのッ!!…先生、先生ッ!!」
呼び掛けたって振り向きもしない。
階段に差し掛かると片手を上げて、姿は見えなくなった。
残された楽譜の中にはベートーベンの有名なピアノソナタもあった。
あーいーつぅーッッ
何考えてんのよッ?
馬鹿じゃないのッ?
こんなの初見で弾けるわけないじゃん!!
楽譜に罪はないけど、あたるものがこれしかなくて強く握りしめた。
私の気持ちなんか美羽に分かるワケもない。
「華恋いいなぁ〜、一ノ瀬先生と話してズルいしッ。私もピアノ弾けたら良かったのに…」
そんな事を言いながら、遠い目をしてた。
とりあえず、教室に戻ろうと歩き出す。
アイツが私に話し掛けた時から刺さるような視線を感じた。
その感じはいつまでも消えなくて、この時から心がざわついてしかたなかった。
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