「美羽ちゃん?」


「……え?あ……ごめんなさい。静香さん。」


お店の作業テーブルの前でぼうっとしている私に、店長の静香さんが声をかけた。


「お客さんだよ。」


言われて視線を追った場所には、真新しい洋服を身に纏った美里ちゃんが立っていた。


今日は、美里ちゃんが旅立つ日。


「美羽姉、今から行く。最後に会いに来た。」


最後………。

美里ちゃんは、離れて暮らしていた母親の元へ帰る。

父親の虐待により、離れてしまった親子。

バリバリのキャリアウーマンだった母親は、仕事が忙しく、虐待に気付かずにいた。

いや、気付いていたのかもしれない。

結果、美里ちゃんは、教会にやってきた。

3年たったら、必ず迎えに来る。そう言った母親の言葉を信じて待っていた。