ハッと気づいた時には彼はもう店の外で。

店長が

『気をつけなさい』

と厳しい顔をした。

彼が置いて行ったレシートを見ると、ルミエール4つ分の値段が払われている事になっていて。

『まぁ、トレイに乗った瓶を押してしまったのはお客様みたいだけどね』

店長はそう私に伝えると、奥から掃除道具を持ってきた。

瓶を落としたのは、明らかに私の、私だけのミスなのに。

罪を被って、弁償までしていくなんて……。

私は店長から渡されたホウキで、砕け散ったガラス瓶を片付けながら、初めて知る甘酸っぱい痛みを感じていた。


謝らなければならない。

そして、弁償してくれたお金は、私が返さなければならない。

私はそれからルミエール2つ分の代金500円をポケットに忍び込ませ、毎日、彼と重なる“とき”を待った。

けれど、1ヶ月以上経った今も、私のポケットには500円が眠ったまま。

待ちくたびれた彼らは、時にジュース代として崩されたり、私の夜の楽しみとしてケーキに姿を変えたりしては、また翌日には戻って来る事を繰り返していた。

そして、今日も。

500円は私のポケットの中──。



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