透明になった水は、ゆっくりと私の手の中に入り込む。

私は、それを大事にしまうように、手のひらを閉じた。

──ドンッ。

後ろから流れる人の波が私の肩を押す。

そして、立ち止まる私に怪訝な表情を向け、去って行った。

車は、突然降り出したものを警戒するように安全運転。

そのせいで思うように進まない流れに、運転手は苛立ちの表情を露わにしている。

信号待ちの人々は帽子を深く被り、肩に乗った雪を振り落とす。

みんな……有り触れたものに、喜ぶ心を忘れ。

当たり前を煩わしくも感じている。



──その時だった。

青に変わったというのに、信号待ちしたまま動こうとしない人がいたんだ。

その彼は、深々と被っていたフードを外すと、そのまま、さっき私がしたように空を見上げ、その手のひらに白たちを乗せた。

慈しむように。

愛おしむように。

それはまるで、待ち侘びた恋人にやっと再会できたかのような眼差しで。

クルッと転がるような瞳は、初めて雪を知った子犬のようでもあった。