ビュネは私が歌うのを黙って聞いていた。
歌い終わってビュネを見ると、罵るでも嘲るでも、笑うでもなく、ただじっと私を見つめていた。
リモコンで演奏を止め、視線をモニタからビュネへ移すと、どこか悲しげな表情を浮かべていた。
「どうしたの?」
私は思わずそう言った。声をかけずにはいられない面持ちだったのだ。
「うん」
ビュネは生返事をしただけで、まだ私を見つめているようだ。
「おいおい、どうしたんだよ」
首だけ向けていた姿勢から正して、真正面に構えると、ビュネは急に抱きついてきた。
突然のことで、私は言葉を失ってしまった。
口にすべき言葉が何も思い浮かばない。
私は、宙をさまよう腕をビュネの背中にあてがい、ぎゅっと抱き返した。
ビュネの体温が、私の胸に伝わっているのがわかる。
冷房が効いて寒いくらいのこの部屋で、若干汗ばむほどだ。
胸に埋められた顔からは、熱い吐息が漏れ出して、私の肌を撫でている。
不意に、ビュネは身体を離して、上目遣いで私の目を覗き込んだ。
私も、それに応えるようにじっと目を見すえた。
どれだけの時間が経ったかはわからない、けれどずいぶん長いように感じられた。
ビュネはまばたきを二度三度したかと思ったら、ゆっくりと目を閉じた。
こういった経験のない私だが、何をすべきかがわかった。
ビュネの背中に回した腕をゆっくりと首にまで上げて、同じようにゆっくりと私の顔を近づけていく。
自然と鼻息が荒くなる。胸が高鳴る。手が震える。
私も目を閉じて、恐る恐るビュネにくちづけた。