『大澤さん……!』


彼の背後から声を掛ける。


ゆっくりとこちらを振り返る彼に、私はほっと安堵の息を漏らす。

彼は私が手にした書類ケースに一瞬目を遣り、そして嬉しそうに、顔を綻ばせた。


『これ……、忘れ物です』

『すみません。わざわざ有り難うございます』


柔らかな口調でそう礼を言った彼は、すっと書類ケースを受け取った。


『じゃあ、……失礼します』

『眞鍋さん』


世間話くらいすればいいものを、すぐにその場を立ち去ろうとした私を彼の低く強い響きを持った声が、呼び止めた。


『……はい?』


どきん……、として振り返る。

切れ長の、優しい光を含んだきれいな瞳が、私を見つめていた。