「あのっ……!忘れ物です!」


緩やかなカーブを曲がり切ったところで君の後ろ姿を見つけ、僕は声を上げた。

足早に歩いていた君が、ゆっくりと振り返る。


どんどん近付く僕を見て、君は少し首を傾げきょとんとしていた。

初めて見る表情だった。


「あの、これ……さっきの店に忘れてましたよ」


軽く息を整え、僕が差し出した文庫本を見つめた君は「あ、」と小さな声を出した。


君がどんな本を読んでいるのかずっと気になっていた僕は、手の中のそれに視線を落とした。

僕は、動けなかった。


それは、僕の本だった。