もう――

彼と会うことも、ないかもしれない……


微かに、胸の奥に小さな穴が空いたような淋しさを覚えながら、テーブルに置かれた湯呑みを片付けていた私の爪先に、コツン、と何かが当たった。


……?

これ、――


彼が座っていた椅子の足元に置かれた、書類ケース。

私は咄嗟にそれを掴み上司に一声掛けた後、エレベーターホールへと小走りに走った。


エレベーターホールには既に彼らの姿はなく、私は逸る気持ちを抑えながらエレベーターのボタンを押す。

1階へ下りると、人影も疎らなエントランスホールの長椅子にひとり腰掛けている彼の姿を見つけた。