むせ返るような湿気を含んだ空気の中に、立ち上る甘い香りに少女は微かに顎を上げた。

透明な雫を纏った眩(まばゆ)い程に白く輝く小さな花が、健気に少女を見下ろしていた。


フランジパニ――


少女は最後の力を振り絞り、その可憐な白い花に手を伸ばした。

震える指でそっと一輪、花弁を手折る。


少女はその瑞々しい清らかな花を髪に挿した。

いつか少年が、そうしてくれたように。


初めて一つになったあの日、少年と交わした約束を少女は思い出していた。

今ではもう叶わない、たったひとつのささやかな夢――


守れなくて……ごめん、ね――


少女は僅かに唇を動かし、そのきれいな瞳をゆっくりと閉じた。

一筋の涙が、零れて消えた。