私たちは冷んやりとしたキッチンの床に座ったまま、長い長いキスを交わす。


ふと、絡めていた舌を解き啄むように落とした彼の唇が、私の唇から離れる。

そして、額を私の額にくっつけた、彼は。


「あの時……わざと書類ケース忘れて、良かった」


悪戯な瞳でそう呟いた彼に、私は小さく驚きの声を上げる。


「え、あれ……わざとだったの?」

「どうしても、莉子を誘いたかったから」


今更ながらそんな嬉しい言葉を言ってくれる彼に、私は少し呆れたような口調で彼を見つめる。


「もし、あのまま誰も気付かなかったらどうするつもりだったの?」

「あの時は必死だったから……そんなこと、考える余裕なかった」

「馬鹿ね」


照れ臭そうに囁いた彼が、たまらなく、いとおしい。


「ねぇ、……どうして、オレンジ色を買ったの?」


不意にあの時の疑問が降って湧いて、私は上目遣いで彼を見上げた。


「ん、……」


彼は形の良い唇の端を持ち上げ、一層艶やかに微笑む。


「莉子を抱いてる時、オレンジ色の光が見えるから」

「……馬鹿」


私は再び、彼の柔らかい唇を塞ぐ。