嬉しさよりも驚きの方が勝った私は、黙ったまま彼の顔を見つめ続ける。


「だけどなかなか……きっかけが掴めなくて。海外転勤も、莉子のことも。この機会を逃したら僕は一生、後悔すると思った。だから……僕と結婚して、一緒にアメリカに来て欲しい」


そんな真剣なプロポーズにもなかなか口を開かない私に、彼のきれいな瞳に深い影が過る。

私は止まったままの呼吸を呼び起こし、長い息を吐き出した。


――そして。


両腕を、彼の首に回した。


「じゃあこれも……持って行かなきゃ、ね」


そう言って振り返って、小さなオレンジ色の踏み台を見下ろした私に、彼は暫く目を見開き――

ふっと優しい安堵の光を含んだ瞳で、私を見つめた。


「これ、嫌いじゃなかったの?」

「ふふ……愛してる」


初めて口にした、言葉。


「愛してるよ……莉子」