遠く山の端に茜色の夕陽がかかり始めた空を眺めて歩きながら、僕は美咲のことを考えていた。


このまま、僕は美咲と会わずに帰ってしまうのだろうか。


抱き締めた腕に、重ねた唇に、まだ彼女の温もりが残っている。

だが、僕はそんな自分の愚かな考えに呆れ果てた。


第一僕は、彼女の連絡先を知らない。

否、また会ったところでどうするというんだ?

ましてや、彼女はもう家庭を持っている身なのだ。


――会える訳がないじゃないか。


肌寒い風が畦道を吹き抜け、僕は肩を竦めて自嘲した。


この先父が死ぬまで、もうこの町に帰って来ることはないだろう――


そんなことをぼんやりと考えながら、僕は赤紫から紺色へと移り行く春霞みの夕空を見上げていた。