暫くの沈黙の後、風が吹いた。

唇に、何かが優しく触れた。


「ありがとう。会えて、良かった」


耳元に静かな風のような言葉を残し、美咲の温かな気配が、遠くなったような気がした。



「……美咲?」


柔らかな風に身を委ねたまま、僕はゆっくり目を開けた。

彼女の姿はもうそこにはなく、雪のように降り注ぐ桜の花弁だけが、僕を包んでいた。


「美咲……」


まだ彼女の余韻の残る唇に、そっと触れる。

薄桃色の花弁が一枚、僕の指先からはらはらと滑り落ちて行った。