彼女が、今誰かのものだということなど頭から消えていた。

十年もの時を経て、ただ美咲が好きだというその想いだけが、僕の心を、身体の全てを支配していた。


「ごめん、美咲……」


僕はずっと、美咲のことが好きだった。

きっと、美咲が僕を好きになってくれるずっと前から。


けれどもその想いが、言葉にならない。


「修、ちゃん……」


震える、彼女の声。

しなやかな指先が、僕の背中を抱き締める。


僕は彼女を強く抱き締めたまま、白い頬に零れ落ちる涙を唇で掬った。


「ん、……ふ」


唇が、重なる。

それはまるで、儚く清らかな、桜の花弁のような口づけだった。