「美咲なら、いい嫁さんになったんだろうな」


そう言って、僕は手を伸ばせば触れられそうな距離に佇む彼女に作り笑いを見せた。

すると彼女は微かに眉根を寄せ、俯き加減に小さく首を振った。


「ううん……」


長い睫毛を伏せたまま、彼女は悲しげな笑みを浮かべる。


「私……馬鹿だよね」


そう言って俯いていた顔を上げた彼女の瞳は、薄らと滲んでいた。

どきん、と小さく鼓動が跳ねた。


「修ちゃん」


不意に遠い目をした美咲の表情に、僕は目を細めた。


「ん?」

「十年前にここに来た時のこと……覚えてる?」

「ああ……」


僕は曖昧な返事をして、風に揺れる大きな桜の木を見上げた。


高校を卒業して間もない、三月最後の日。

あの日も今日のように、小さな頬を染めて咲き誇る桜の花が、優しく風に揺れていた。