強い風が吹き、砂埃を巻き上げた。

はらはらと、満開の桜の花弁が風に舞う。


僕は微かに眉を寄せた。

懐かしい甘い香りに、僕の胸はざわりと波立つ。


桜の木の幹の向こう側に、長い黒髪がさらさらとなびいていた。


「美咲……?」


僕は無意識に彼女の名前を呼んだ。

どくん、と身体の奥から鼓動が響く。


「修ちゃん……」


癖のない長い髪を片手で押さえながら、彼女は木陰からそっと顔を覗かせた。


「来てくれたんだね。きっと必ず……またここで会えるって思ってた」


微笑みながらそう言った彼女は、何故だか少し悲しげに見えた。