風が吹いた。


僕のすぐ頭の上で、可憐な花弁の傘がさわさわ揺れた。

眼下に広がる町の景色に視線を馳せる。

春の暖かな陽光の中、何もないちっぽけな田舎町が水彩画のように淡く霞んでいた。


ここは、僕が生まれ育った町だ。

ここで僕は、十八年間何を思って生きていたのだろう。


平凡な幸せ――

そんなものが、かつてここにあったのだろうか。


裏切り、悲しみ、嫌悪、孤独。

そして、人を想う苦しみ。


遠い昔に忘れていた感情が次々と僕の胸に去来し、しかしそれは春のぼんやりとした霞に紛れて霧散して行った。