見上げた空一面にしなやかに枝を広げ、幾重にも重なる薄桃色の花弁が微かな光を纏い、優しく風に揺れている。

その桜の古木は、淡い春の光の中仄かに匂い立つように、ひっそりとそこに佇んでいた。


十年前のあの日と、少しも変わらずに。


僕はその圧倒的な美しさに目を奪われたまま、ゆっくりとその大きな桜の木へと歩み寄った。

そっと滑らかな木肌へ掌を添え、咲き誇る満開の桜を見上げる。


お帰りなさい――


さわりと枝を揺らした桜の木が、そう言ったような気がした。


温かく優しい、命の鼓動。

そして同時に、例えようのない寂寞を僕は感じていた。