春の、匂いがする。


開け放たれた小さなキッチンの明かり採りの窓に、ぼんやりと浮かぶ月。

夜も深まっているというのに、まだ早い春の夜空は霞みがかって、仄かに明るくて。


窓辺から冷んやりと染み渡る空気と、鼻の奥を掠める懐かしい香りに、胸がしん……と切なくなる。


私は窓を開けたまま、自分のためにコーヒーをいれる。