先生は、小さな溜め息をつくと

「多田さんは、まだ一度も宇都木先生とは言ってくれませんね…」

「翔梧先生は、まだ一度も愛華とは呼んでくれませんね」

透かさず言い返し、悪戯っぽく笑う。

「全く、あなたって人は…」

そう言って、左手で
瞳と同じ漆黒の、サラサラで艶やかな髪をかきあげながら苦笑いを浮かべ

少し吊り目の大きな瞳が
細く、柔らかくなる。


私は、このひと時と、
この顔が見られるだけで満足、幸せ…


髪をかきあげた先生の左手薬指にキラキラ光る指輪を見つめながら思っていた。