「ナイスシュート」


パシンッて
グローブにボールが
収まる音を背中で聞く



「郁弥」


パシンッ


「負けんなよ」


パシンッ


「負けるなっていうのは
友達やお母さんに
じゃないぞ」


パシンッ


「つらい事や悲しい事
悔しい事、逃げ出したい事
たくさんたくさんあるよな

泣いてもいいし
立ち止まってもいい

自分じゃ、
どーにもならない事は
誰かに助けてもらえ

ただ、つらい思いしたら
いつか必ず
それを強さに変えろ

つらい思いに負けて
腐るなよ

きっとお前の優しさ支える
強さになるから」


風が吹いてる
今、郁弥くんは
強風の中にいる


私たちは
風を止める事は出来ない
だけど



「傷ついたら
オレんところ帰ってこい

郁弥が
歩き出せるようになるまで
絶対に守る
誰からも絶対に守る

郁弥がまた
踏み出す時は
背中を押してやる」


泣かないように
空を見上げた
後ろは絶対に振り向かない



「負けんじゃねーぞ!弟っ!
絶対に帰ってこいよ

オレは、こんな足だから
いい球、投げれねーんだ

青波が大きくなったら
お前がキャッチボール
相手してやってくれよ」




先生の投げたボールを
郁弥くんは きっと
受けとめてくれたはずだ