家に着いて 鍵を開けた時
ふいに郁弥くんが訊いた


「僕、また、お母さんに
優しくなれるかな……?」


「なれるよ、大丈夫」


と笑いながら
玄関のドアを開けて
郁弥くんを中に入れ
靴を脱ぐ、背中を見る


キミはもう
優しすぎるくらい
優しいじゃない



「ねぇ」


「んー?」


「市花さんは
お母さんと仲いい?」


「――――――――……」


一度、まばたきをしてから
はっきり答える


「うん。スッゴク仲良し」


「……そっか」


振り向いて
郁弥くんは小さく笑う



大丈夫、大丈夫
つらい事もある
だけど
そればっかりじゃない






夜、帰ってきた先生は
郁弥くんの傷を見て


「さすが、男の子だな」
と頭を撫でた



子供たちが寝静まったあとで
今日のことを全て話した



先生は目を伏せて
「そっか」と呟いて
しばらく黙り込んだ



郁弥くんには内緒で
次の日
先生は郁弥くんの学校と
お母さんの元を訪ね



郁弥くんには
分からないように
さりげなく手助けしてほしい
と頼んだらしい