「咲哉……さん?」



薄く目を開けた私は、咲哉さんの名前を呼んだ。



「ん?」



遠くを見ていた咲哉さんの視線が私に移る。



「何か……考えごとしてたの?」


「どうして?」


「遠くを……見つめてたから……。何か考えごとしてるのかなぁ……って……」


「昔のこと思い出してた……」


「昔のこと?」


「うん……」


「教えて?」


「聞きたい?」


「うん。聞きたい」



私はクスッと笑った。


咲哉さんの昔のことが聞きたかった。


私の知らない咲哉さんのこと。


でも……。


咲哉さんの口から信じられない言葉が出た。



「俺、15歳まで施設で育ったんだ……」


「えっ?」



私は目を見開いて咲哉さんを見た。



「ゴメン……なさい……。辛いこと聞いちゃって……」



どうしよう……。


私が"聞きたい"って言ったから……。



「いいよ……」



咲哉さんは微笑んで、私の髪を撫でた。



「もう、話さなくていいから……。ゴメンね……」



ゴメンなさい……。



「ううん。穂乃ちゃんに俺の過去を教えてあげる……」


「咲哉さん……」



私は咲哉さんを見た。


咲哉さんの過去……。


教えてもらってもいいの?