「ホントに駅まででいいの?」



阿川さんの車の中。


雨は、まだ止むことなく降り続いている。


阿川さんは運転しながらそう聞いてきた。



「はい、親に迎えに来てもらうので…」


「そっか…」



親が迎えに来るなんて嘘。


あと少しで駅に着く。



「来週は手話教室にちゃんと来いよ」


「あ、はい」


「それから…俺と話すときには敬語使わなくていいからな」



阿川さんは、チラッと私を見てそう言った。



「はい…じゃなくて……うん、わかった……。あっ!阿川さん?」


「ん?」


「阿川さんのこと"咲哉さん"って名前で呼んでいい?」



「あぁ…いいよ」



自分で名前で呼んでもいいか聞いたのに、いざ"いいよ"と言われたら凄く恥ずかしかった。


今日、翔にフラれたのに……。


大好きな翔にフラれて辛かったのに……。


でも咲哉さんといるとドキドキしちゃうのは何でだろう――。