次の瞬間――。
阿川さんは傘を放り出し、私の手を引っ張った。
阿川さんが放り出した傘は、風に吹かれて転がっていく。
私は阿川さんの腕の中にいた。
私を抱きしめる腕に力が入っていくのがわかる。
阿川さん……どうして?
どうしてこんなことするの?
「……どう…して…」
私は顔を上げてそう言った。
「……風邪……風邪ひいちゃうと…いけないから…」
阿川さんは私を見下ろし、優しい顔でそう言った。
「……阿川さんも……風邪ひいちゃう……」
「俺は……大丈夫……」
阿川さんがクスッと笑う。
「送って行くから…帰ろ?」
えっ……。
「……やだ…」
「えっ?」
阿川さんは目を見開いて私を見た。
「こんな雨に濡れた姿で帰ったら心配されちゃうから……。コンビニがあったらそこで降ろして下さい。服が乾くまで雨宿りするから……」
私はそう笑いながら言った。
でもそれは嘘。
ホントは家に帰りたくないの……。
家に帰っても私の居場所はないから……。
「わかった……」
阿川さんはそう呟いた。



