"阿川家之墓"
そう書いてある、お墓の前で咲哉さんは止まった。
「ここ?」
「あぁ」
「お花を持って来れば良かったね」
「そうだな」
咲哉さんはそう言って、お墓の前にしゃがんだ。
私も咲哉さんの隣にしゃがむ。
「父さん、母さん……。この子が俺の彼女の穂乃ちゃんだよ」
咲哉さんは、お墓に語りかけるように言った。
"彼女"
その言葉が凄く嬉しかった。
「初めまして。神崎穂乃香です」
私は、お墓に向かって言った。
「父さんも母さんも喜んでるよ」
咲哉さんは立ち上がり空を見上げた。
雲ひとつない澄みきった青空。
「咲哉さんのお父さんとお母さんに気に入られるといいな」
私も立ち上がり、空を見上げた。
咲哉さんの視線が私に移る。
私も視線を咲哉さんに移す。
お互い微笑み合った。
咲哉さん……。
私、大丈夫かなぁ?
咲哉さんのお父さんとお母さんに、ちゃんと気に入られるかなぁ……。
私は再び空を見上げた。
咲哉さんのお父さん、お母さん。
これから宜しくお願いします。
私は心の中でそう言った。



