プラチナの誘惑

『虹』

と題された絵を見つめる彩香。

幾つもの作品が展示されている館内の中を一目散にその絵へと歩いて行った先にあった絵。

並んで、無言のままに俺もその絵を見る…。

「鳥肌が立つくらいに大好きなの。
悩んだりつまづいたり
したらいつもこの絵に励まされてる」

絵を見つめたまま呟く彩香の声はどこか遠くから聞こえてくるようだ…。
言葉の一つ一つが俺の鼓動を跳ね上げる。
何のためらいもなく絵を見つめる幸せそうな横顔が、俺の心を揺らす。

『虹』

を見ながら、本当は見ていない俺の目は熱くなっていくばかり。

「いい絵…」

ぼそっとこぼす彩香の言葉は魔法のように。

俺の胸に小さく居座る不安を呼び出してしまう。
俺の気持ちを受け入れてくれて、『好きよ』としがみついてくる彩香の気持ちを疑うつもりはないけれど…。
彩香を側に置く気持ちは揺るがないけれど。

不安という小さな点に気づかないままにいたけれど。

こんなに一生懸命に絵を見る彩香を見ると、ニューヨークで同じような目をして絵を見続けていた彩香を思い出す。
こんな風に、ただただ俺を見て欲しいと…ひたすら俺自身を愛して欲しいと願い。

彩香への気持ちに気づいたあの日を思い出して。

同時に浮かぶ不安…。

絵に視線を投げる彩香をそっと見ながら…。

「彩香…」

「ん…何?」

「いつから…俺の事が好きなんだ…?」

隠していた不安を口にした途端、それは小さな点じゃなくて…。
俺には抱えきれなくなりそうなほど大きなものだったと気づいた…。

はっと俺に振り返った彩香は、何も言わず…しばらく俺を見つめていた。