プラチナの誘惑




「行きたい所があるの」

泣き声に近いながらも笑顔を浮かべながら、手を繋いできた彩香の言葉に首をかしげると。

「ここからそんなに遠くないから…。
見たいものがあって…」

たどたどしく話す瞳は真剣で、本当に行きたいんだなとわかる。

病院を後にして、会社にはもう戻らなくてもいいと、彩香の上司からも相模さんからも言われた俺達は、そのまま彩香の行きたいと言う場所に向かって歩きだした。

どこに向かっているのかもわからないままゆっくり歩いていくうちに、彩香の表情も普段と同じ色が戻ってきてホッとする。
柚さんと会ってどんな話をしたのかわからないまま。
今まで見せなかった彩香の激しい想いを垣間見て嬉しさをかみしめながらも…。
気になる言葉も言っていた。

『忘れられない人がいてもいい』

…俺が忘れられない人って事だよな?

感情の高ぶりの中で思わず言ったにしては何か重みのある言葉が気になったけれど、言われた瞬間は彩香を落ち着かせるのに必死で、問い直さなかった…。

俺の忘れられない人…。
やっぱり女だよな…。

どう考えても浮かばない…。
彩香以外本気の女なんていないしな…。

気になるけど、とりあえず…今は彩香の精神状態を落ち着かせるのが先決だな…。

繋いだ手に力をこめて、俺を見上げる彩香に、ふっと笑った…。