そして…。
柚さんと野崎さんの姿に体中が占拠されて、思考全てが停止したまま。
病院の待合でぼんやりと座っていた私の前に突然現れた昴を見た事は覚えてる。
「彩香っ…どうした?
何があった?」
心配しながら私の顔に触れる昴の手の温かさ。
慌てて来たせいか荒く弾む吐息。
あぁ…昴が私を抱きしめてる…。
すっかりなじんだ昴の香水の匂い…。
目を閉じてもわかる表情…。
柚さんの病室で感じた強い衝撃のせいで、堅く閉じた心のガードが少しずつ緩む。
自分の体温が戻ってきて、再び鼓動の音が聞こえてくる。
とくとく…。
自分の鼓動がいつもより激しく跳ねる音がこんなにも幸せに思える…。
私に触れる昴の体温の優しさが、こんなにも涙を誘うなんて、思った事なかった。
不安げに私を見つめたままの昴を見つめ返すうちに、どうしようもなく溢れ出す感情。
唇から…指先から…瞳から…私の全てからこぼれる気持ち…。
膝をついて、私の頬を撫でる昴の首に思い切りしがみついて、ぎゅっとそのまま。
首筋に顔を埋めて息をする。
「好きよ…。
すごく好き。昴と一緒にいられるのが一番幸せ。
今までの事も…
昴に忘れられない人がいたって…
今私を愛してくれる気持ちがあるから…
一緒にいられるだけで…明日も笑えるから…
それだけでいい。
他の事はどうでもいい」

