プラチナの誘惑

きっと、心は不安でいっぱいのはず。

私が差し出した新しい布絵本を受け取った指先も微かに震えて、唇の色だって…。

「…柚…」

背後から声がして振り返ると、野崎さんが扉を開けて立っていた。

「…死なない。死なせないから。
桜と俺をおいて逝くな。三人で花見するんだぞ。一緒に歳とって、まだまだ愛しあうんだからな。

死ぬなんて許さない」

柚さんを抱きしめながらしぼりだすように言う野崎さんは、ためらう事なく柚さんに口づけて。
流れる涙を拭おうともせず…。

「柚…愛してる…」

大きな背中に包まれた柚さんは、その言葉に頷いて

「…死なないわよ。
桜と…私がいなきゃだめな健吾を遺して死ねない。
たとえ寝たきりになっても健吾にしがみついて離れないんだから」

二人抱き合いながら…。

愛しか見えない姿に…。

泣きそうな気持ちを抑えて…。

そっと部屋を出た。

どうか、柚さんの出産が無事に…。
二人がまだまだ愛し合えますように…。
祈るしかできないけれど。
精一杯祈るから。

どうか…。