プラチナの誘惑

「座って…？」

言われるままにベッドの横の椅子に腰掛けた。
ふふっと笑った柚さんは、大きく息を吐いた。

「そりゃ、私も嫉妬したり泣いたり。健吾が好きだから悩んだわよ。
でも、私がいない時の事だし、再会してからは私しか見てないのがわかってるから…。

それに、女から見ても望さん素敵だもん…。

…私ね。

このお腹の中にいる桜をちゃんを抱けないまま死ぬかもしれないの…」

え？

突然変わった言葉に、体中が緊張で強張る…。
表情は柔らかいままなのに…突然の言葉にどう答えていいのかわからない。

「あ…ごめんなさい。
暗くなっちゃった。

でも…死なないように頑張るから大丈夫よ。

桜と健吾と幸せに暮らしたいもん。
絵本もいっぱい読んであげたい。
お腹にいる桜に私の声を覚えて欲しくて毎日読み聞かせてたけど…。

直接読んであげたい。

健吾にももっともっと愛されたい。

だから…生きたいの」

淡々と語る柚さんの口調は重くはないけれど、それが余計に私の心を震わせて、切なくなる。

「生きたい…。

それ以外に悩む事も望む事もないの。

健吾の過去なんて、悩みじゃない。
そんな事どうでもいいもん。

この先、家族揃って幸せに暮らす事だけが私の願いだから。

…だから。

彩香ちゃんにも望さんにも…マイナスの気持ちなんてないのよ。

ふふっ…悟ってるでしょ」