プラチナの誘惑

「え…?」

相模さんの言葉が理解できなくて、どう反応していいのか…。
いたって真面目な表情の相模さんが冗談を言ってるとも思えなくて、ただ見つめ返すだけ。

そんな私にふっと笑顔を向けてくれると。

「…俺は、昨日葵と一緒に見舞いに行ったし、今は手が離せないんだ…」

優しく、何か思いを抑えるように。

「夕方は…健吾と二人にしてやりたいから…今から行ってくれないか?」

「でも…私は、柚さんに直接会った事ないんですけど…」

野崎さんに偶然会った事があるだけで、直接柚さんに会った事はない。
姉さんからの言葉で、野崎さんと柚さんのイメージは持っているけれど…。
それでも…絵本を渡すためという理由があるにしても、明日出産という日に会いに行くなんて、ためらいを感じずにはいられない。

それに…私が躊躇する理由は他にもある。

きっと相模さんはその事を知らないんだろう…。
じゃなきゃ私を柚さんに会いに行くようになんて言うわけない…。
姉さん…望の妹だという事を知ってるなら…。

気まずい想いに潰れそうな心がどんどん大きくなるのを感じていると。

「…柚ちゃんなら…大丈夫だから。
全部知ってるから。

今日は、単純に布絵本の作者として会ってきたらいいから…」

穏やかな笑顔…。
はっとした私に頷く相模さんは、何もかもうまくいくからと…。

布絵本を再び私に手渡した。