プラチナの誘惑

「…柚さんが手術後、無事に赤ちゃんを抱く事ができるかは半々…」

低くつぶやく昴の目は潤んで…信号で停車する度にハンドルの上の手は震えている。

柚さんの事情を話す事は簡単な事じゃない。

命をかけてる毎日。
誰だって柚さんの無事と赤ちゃんが元気に産まれてくる事を祈りながら。

設計部総出で野崎邸を建てた事を考えてもその想いが重く感じられる。

親友の日和でさえ、今日まで私に内緒にしていた一大プロジェクトは、きっと柚さんの無事を見届ける事で完結するんだろう…。

「…水曜日に…赤ちゃんに会えるって野崎さん言ってたよ」

新居で微笑みながらも悲しそうな野崎さんの横顔を思い出しながら…全てが理解できた。

柚さんの無事を願いながら。
新居で親子揃って幸せに暮らすために必死で不安を押し殺していたはず。

マスコミに知られないよう気をつかいながら。

重い空気の中で。

昴のマンションに向かう車内は無言。
それでも何故か。

二人の距離は近いと思えた。