先ほどから、こんなに近くで話している菅野や真悠佳の声がどこか遠くから
聞こえているように感じた。

まるで、自分じゃないような…。



「カナちゃん、カナちゃん」
カナはその場に崩れるように倒れこんだ。


真悠佳は、慌てて看護師を連れてきた。
「カナちゃん」
脈を確認しながら、看護師がカナを呼ぶが反応はない。

その様子を見て、2,3人のスタッフが駆けつけた。
「解離でしょう、心配ないです」
ベテラン医師の坪井が、すばやく血圧や酸素の状態の確認し言った。

その後、カナは、ベッドに運ばれていった。



カナは2時間眠っていた。

看護師が、様子をみにきてカナと自分の目線の高さをあわせ、カナの手を握りしめた。
「何か発作が起こるような嫌なことでもあった?」
「ないよ」
カナは首を大きく横に振った。
「そっか、カナちゃんは心配しなくていいからね」
看護師は、優しく微笑んだ。

少し沈黙した後、カナは言った。
「こんなの嫌だ」
「こんなのって?」看護師は心配そうに顔を覗き込んだ。
「…発作とか解離」

「カナちゃんの様に、嫌な現実を受け入れられない人の表現の仕方なの。
いいことではないかもしれないけど、悪いことではないよ」
「カナちゃんはカナちゃんよ、普段の明るいカナちゃんも
解離の時のカナちゃんもカナちゃんなの」

カナはその言葉に小さくうなずいた。

カナは思った。
“私は2人いる、もう1人のカナが私を守ってくれてる”