「子猫ちゃん。大丈夫?」
「ミャーオ。」

 この子猫は、飛夏羽の言葉が理解出来るのだろうか?
飛夏羽の問いに答えるように子猫は鳴いた。

「ふふっ。」

 飛夏羽は優しく笑って子猫を見つめた。

 これも作り笑顔なのだろうか。

 さっきの優都の言葉が、飛夏羽の頭の中で繰り返されている。
飛夏羽は子猫を抱き締めて校門に向かって行った。

「こんな所に居られたのですか飛夏羽様。翔太様もご一緒ですか?」
「…あなた達は…」

 校門を見るとスーツを着た大勢の男たちが立ち並んで飛夏羽の事を見ていた。

 飛夏羽は子猫を抱き締めたまま後ずさり、後ろを振り向いた。

「…嘘?」

 後ろからも大勢の男たちがゆっくりと歩いて来たのだ。
後ろからだけではない。左からも、右からも、四方全てに男たちが集まり飛夏羽
を囲んだ。

「好い加減諦めて下さい、飛夏羽様。あなたはもう囚われの身なのですよ。」

 男たちの中で一番目立つ男が飛夏羽に近づいてきた。

「近づかないで!…あなた達のせいで…私が…私の周りの人がどれだけ傷ついた
か…優都だってそうよ…私のせいで…あなた達のせいで!」
「おや、言ってる事が違うのでは?」

 リーダー格の男は更に飛夏羽に近づいて飛夏羽の両腕を掴んで身動きできない
ようにした。

「…痛っ…」
「私たちのせいではなく、あなたのせいなのですよ。」

 男は飛夏羽に顔を近づけて言った。

 子猫はおどおどしながら飛夏羽を心配そうに見つめていた。

「逃げて!もう戻っちゃいけない…声が…聞こえているんだよね?お願い…逃げ
て…」

 飛夏羽は子猫に訴えかけた。
しかし、子猫はその場を動こうとしなかった。

 身動きせずにじっと飛夏羽の目を見つめた。

「…子猫ちゃん…」
「飛夏羽!」
「…誰?」